ECの世界

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(第23回)AIを活用したアウトドアメディアの広告配信システム

新しいアウトドアメディア(デジタルサイネージ)のプロトタイプが発表されました。「Face Targeting AD(フェイスターゲティング・アド)」と呼ばれるもので、画面の前にいる人の顔や感情に合わせて商品やサービスの広告を出し分ける広告配信システムです。

博報堂がコンセプトとクリエイティブ全般を担当、博報堂アイ・スタジオが顔認証の技術開発や特徴別の広告配信システムの開発および鏡型アウトドアメディアの設計を担当、そしてマイクロソフトMicrosoft Azure上のAIサービス「Microsoft Cognitive Services」の実装などの技術開発サポートを担うという、3社共同開発の製品となっています。

「Face Targeting AD」の実際の利用シーンとして、次のような場面をイメージするとわかりやすいかもしれません。たとえば駅や街中に設置されたデジタルサイネージの前に誰かが立っている。すると「Face Targeting AD」がその人の年齢や性別、顔の特徴や表情を読み取る。それをAIが分析し、もし疲れていそうだと判断すれば栄養ドリンクの広告を、悲しそうだと判断すれば感動的な映画の動画広告を画面に表示するといった具合です。

画面の前にいる人を問わず、送り手が用意した広告を一様に表示し続ける従来のデジタルサイネージと違い、より効率的な広告効果が期待できるかもしれません。なお、同製品は3月12日からアメリカ・テキサスで開催される「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)2017」の博報堂ブースにて体験展示される予定とのことです。


(参考)
博報堂博報堂アイ・スタジオ、日本マイクロソフト、AI を活用したターゲティング広告配信システムのプロトタイプ開発で連携
https://news.microsoft.com/ja-jp/2017/03/09/170309-face-targeting-ad/#sm.0000b1gflcpkfd8ttyx13oe7dbdc6#pZ0jLorPs8VJFrmc.97

(第22回)Instagram Stories上の広告提供

Instagramは、投稿内容が24時間で自動的に消え、写真や動画を気軽に投稿できるインスタグラム ストーリーズ(Instagram Stories)における広告提供を開始しました。2017年1月からNikeNetflixMaybelline New Yorkなど広告主を限定して試験運用しており、今回より提供対象をさらに拡大するとしています。同サービスにより広告主は広告測定機能による効果確認、また出稿にあたっては広告を表示するオーディエンスの最大化、表示頻度の調整も可能です。

記事では活用事例でAirbnbが取り上げられています。「Experiences on Airbnb」という新しいプロダクトの認知度向上のため15秒の動画広告シリーズを作成、インスタグラム ストーリーズ上で配信しました。このキャンペーンにより広告想起率が2桁ポイント上昇したほか、旅行者が現地観光ツアーやアクティビティ検索・予約サービスにAirbnbを選ぶケースが増えるなど一定の効果が示されています。

ストーリーズ上での広告表示は、Instagramにとって新たな収益の柱となるかもしれません。市場調査会社eMarketerが2016年11月に試算した結果によると、Instagramの広告売上高は18億5000万ドルです。ストーリー機能も収益化できれば、この現在のメインフィードの広告売上をさらに押し上げるはずです。


(参考)
インスタグラム、ストーリーズを活用した広告提供開始
http://rtbsquare.ciao.jp/?p=14794
How do I create ads that run on Instagram Stories?
https://www.facebook.com/business/help/1639197963055851

(第21回)吉本、所属タレントを活用した新事業開始

吉本グループが所属タレント約6000人を活用したインフルエンサーマーケティング事業を開始。企業の商品・サービスの特性に合わせて、所属タレントがSNS上で情報発信を行ない、さらなる効果や波及をサポートするといったものです。吉本グループは、Instagramで600万人超えの日本最多フォロワー数を誇る渡辺直美を筆頭に、所属タレント(芸人、アイドル、スポーツ選手、文化人など)のSNS上のフォロワー総数がTwitterで4000万人以上、Instagramで1600万人以上など国内最大規模となっています。事業開始のタイミングでは、まずInstagramを中心としたマーケティングを行う予定とのことです。

吉本側としては所属タレントの情報発信力をビジネス化でき、広告主側としても一般消費者により大きな影響力を見込める同サービスに寄せる期待は大きく、双方にとってメリットがあります。一方で運用の際に注意すべき点もあります。それはステルスマーケティング、通称ステマです。

インフルエンサーマーケティングは「広告の体裁をとらない広告」でより自然に商品やサービスを訴求できる点が魅力ですが、運用面で一歩間違えると消費者との間で法的トラブルも起こしかねません。もし消費者を騙したかのような印象を与えると、商品やサービス自体にネガティブイメージが持たれたり、またタレント自身もそれに加担したとして、好感度も大きく損なわれてしまうことも大いにありえます。そのため吉本と広告主双方としては、JIAAが定めるガイドラインから逸脱するものにならないよう、より慎重な運用が求められそうです。

(参考)
吉本グループ、所属芸人を活用したインフルエンサーマーケティング事業を開始
http://www.nikkei.com/article/DGXLRSP437820_X20C17A2000000/
ネイティブ広告に関するガイドラインを策定(JIAA)
http://www.jiaa.org/release/release_nativead_150318.html

(第20回)Facebookがメディア企業に明かした動画戦略

Facebookは2月17日、自社オフィスに多数のメディア企業幹部(ABC、NBC、New York Times、The Washington Post、BuzzFeed、Refinery29、Vice等)を招き、2017年に計画中のコンテンツと製品のロードマップを説明しました。このイベントは動画広告の収益源構築のために、メディア企業とさらなる連携を図ろうとするFacebookの取組みの一環とされています。

記事によると今回のメインテーマは動画だったようです。Facebookプラットフォーム上でユーザーが過ごす時間を長くするために、オリジナル長編動画作成、動画タブの配置、またライブ動画へのミッドロール広告挿入などが話題に上がりました。Facebookにとって2016年がライブ動画が最優先課題の一年だったとすれば、2017年はロングフォーム動画がそれにかわるメインプロジェクトと見られています。

方向性としては、ショートフォームの動画をいままでどおりニュースフィード上で配信しながら、ロングフォーム動画を動画タブやTVアプリで視聴してもらえるようにするという構想をFacebook幹部は描いているようです。すべてはFacebook上でユーザーの滞在時間を長くするために、そして将来的にYouTubeと競争できる存在にするための施策です。

また現在はケイシー・ネイスタット(Casey Neistat)のようなSNSのスターにしか認めていないライブ動画へのミッドロール広告の挿入を、一般のパブリッシャーにも対象を拡大する計画を発表しています。ただし広告を挿入できるのは、Facebook上でフォロワーが2000人以上いるパブリッシャーやソーシャルスター、および同時視聴者数が300以上のライブ動画に限定されます。それでも、ゆくゆくは「Facebook Live API」を使って、ライブ動画を制作するパブリッシャーにもツールを開放すると見られています。

(参考)Facebookがメディア企業に明かした「動画戦略」の中身
http://digiday.jp/publishers/facebook-pitches-video-monetization-product-roadmap-publishers/

(第19回)MAについて

デジタルマーケティングの実行作業を自動化すること、または自動化してくれる機能がオールインワンでパッケージされたツールをMA(Marketing Automation)といいます。クラウド型で提供されることが多いため、マーケティングクラウドと呼ばれることもあります。2000年代に米国で普及し始めたMAは、日本では2010年頃から徐々に市場に広まりました。

企業はMAを導入することで、既存・新規・見込み顧客に対して、より効率的な広告投資が可能になります。ECサイトを例にとってみましょう。たとえば、ある人が商品をカートに入れたものの何らかの事情により購入を見送りました。そのような人に対して、翌日リマインドメールを送る。メールを開いても購入しなかった人には後日リターゲティング広告を表示する。それでもその広告をクリックしなかった場合には・・という一連のオペレーションを、シナリオ設計することで自動化することができます。

MA普及の背景には、顧客が商品を購入するまでのプロセス(カスタマージャーニー)の多様化があります。さらにそのカスタマージャーニーの背後には、スマートフォンが大きく影響しているのは言うまでもありません。そのような中、企業にとって見込み客を最適なタイミングで抽出し、次のアクションを実施する仕組みをマンパワーで行なうには限界があります。MAは、そのようなデジタルマーケティングのプロセスにおいて、実施工程だけを担い、人的オペレーションの工数削減に寄与しています。そしてマーケターはシナリオ設定といった、人しかできない業務でより付加価値を出していくことが可能になります。

(第18回)運用型広告と自動化

インターネット広告は純広告と運用型広告に大別されますが、現在は運用型広告が主流となっています。2016年のインターネット広告費の約70%を運用型広告が占めるほどです。純広告が「〜の期間で〜円」「〜impで〜円」のように固定で広告枠の売買がなされるのに対して、運用型広告はCPM(Cost Per Mile、広告表示1000回あたりの料金)やCPC(Cost Per Click、クリック単価)の入札方式で売買されています。

さらに運用型広告は、ユーザのデモグラフィック情報、配信地域、時間帯、入札額、クリエイティブなどをリアルタイムに変動させながら運用していくのが一般的です。広義ではリスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告、アドネットワーク、DSP(Demand Side Platform)もすべて運用型広告の範疇に入ります。

そんな運用型広告でよく話題になるテーマに「自動化」があります。要するに、運用型広告のオペレーションにおいて、どこを自動化させ、どこを人の手に委ねれば生産性を向上できるのかといった話です。一般的に運用型広告には、過去の広告配信実績や3rdパーティのクッキー情報などを利用し、各ユーザに最適な広告配信を可能にする「自動最適化」機能が実装されています。それにより、特定ユーザに最適な広告をベストのタイミングで配信できるわけです。

このような運用型広告の特徴をみると、自動化が進み、ますます人の手がかからなくなるのでは?という向きもあるかもしれません。しかし実態としては現場の人的オペレーションの需要は拡大しています。なぜなら、設定した目標達成のために、最初から細かくセグメント別に配信設計を行なうなど、ますます複雑化する構造に人的オペレーションが追いつかないからです。実際、運用型広告を扱う広告代理店等は、オペレーション業務のみを行なう子会社や地方センターを立ち上げ人員増加を図っています。

こうしたなか最近では、機械学習によって広告配信を最適化する「オートクルーズ」、1つの広告クリエイティブを作成することであらゆる広告スペースに対応できるGoogle AdWordsの「レスポンシブ広告」など、自動最適化に関するツールが増えています。こうしたツールをうまく活用することで、過度な人的オペレーションの軽減に役立つかもしれません。

(第17回)アトリビューション分析

アトリビューション分析という言葉があります。これは広告のCVに対する貢献度を測る分析手法を指します。2011年頃からバズワードとして広がり始めました。

広がりの背景としてよく指摘されることは、メディアやデバイスの多様化です。一人がスマホタブレット・PCを持つのも珍しくなくなり、オンライン・オフラインを含めて多くのメディアに接する機会が増え、その結果広告計測がますます複雑になってきました。

これ以前は、広告のCVに対する貢献度の評価は単純な方法でした。たとえばユーザがある商品をコンバージョンするまでに広告A、B、Cに接触していたとすると、単純にCV直前にクリックされた広告CだけをCVへの貢献度として評価してきました。言い換えると、広告Cのクリックに辿り着くまでに、ユーザに対して認知などのアシスト効果を果たしたかもしれない広告A、Bの効果は正当に評価されなかったのです。

そのような中、広告の計測ツールが日進月歩で進化し、クリックされたサイトに流入を呼んだ広告がアシスト効果として計測可能になりました。さらにクリックはしてないが閲覧していた広告、これに関しても計測可能になりました。つまり上記で言うところの広告A、Bが計測可能になったわけです。

それを受けて、CVを促した可能性のある全ての広告接触を計測し、分配モデルを利用しながら、各広告のCVへの貢献度を一つひとつ適切に評価しようという機運が高まりました。その評価に基づいて広告主は広告予算を再分配し、広告全体の効果向上に役立てようと考えたのです。

そんなアトリビューション分析ですが、(欧米と比較して)広告主の間ではまだ十分には浸透していない状況といえます。なぜなら日本の広告業界においては、ラストクリックのCV計測が一般的であり、CVに近いところで効果を発揮するリターゲティング広告などに評価が向きやすいとう慣習があるためです。それに加えて、分析の手間、オフラインを取り込んだ計測環境の構築、分析結果に基づいたアクションへのハードル、これらも日本でアトリビューション分析が完全に浸透しない要因と指摘されています。アトリビューション分析の浸透という意味では、まだまだ過渡期の段階かもしれません。